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1999年10月26日から2004年10月12日まで続けたマーケティング的コラムをブログとして復活させました。 大昔に会社の部門報に書いた文章も少々。
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今週の日経ビジネスを読んで、思わず唸ってしまいました。
それというのも、「敗軍の将、兵を語る」のコーナーが「ソフトバンク孫氏」だったから。

このコーナーは、読んで字のごとく、「負け組」の会社の社長、オーナー、責任者が登場するところ。
ここ最近取り上げられた例をみても、ロケットを立て続けに墜落させた宇宙開発機構理事長、不祥事続出の日本ハム社長、視聴率操作の日本テレビ会長…。
一般的には、どうか分かりませんが、ビジネス界でのイメージは最悪となった企業・団体のお偉方が登場しています。
そのコーナーに、よもや孫正義が出ることになるとは…。

しかも、掲載されている写真が、出版社のイヤらしい思惑もあるのか、極めて情けない顔付きです。
「時代の寵児」の面影は、どこにもありません。
もっとも、「今までどんなに赤字を出そうが何しようが、一度も公の場でお詫びしたことはなかった」(日経ビジネス04年3月22日号、P181より)とも語り、いつもの強気の一端を伺わせてはいます。

個人的には、450万件という膨大な顧客データ流出は、ジャパネットたかたと同様、「強盗事件」として処理されるべきと考えています。
もちろん、セキュリティが大甘だったという責任は追及されるべきですが、インタビューで孫氏が語るように、「性善説」に基づいて事業運営をしていたところを、悪人が狙ってきた。
こればかりは、いかんともしがたいはずです。
世の中の企業の大半は、「ネットセキュリティ」は強化していても、「強盗対策」まではできていないでしょう。

いつもは、不遜な態度が鼻持ちならない孫氏ですが、今回ばかりは、少し肩を持ちたい気もします。
災い転じて福となすことを、祈るしかありませんね。

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その同じ日経ビジネスで、「敗軍の将…」のコーナーと裏腹に、その時々の注目人物が登場するのが、「編集長インタビュー」。
同号に登場しているのは、「楽天三木谷氏」です。

こちらの写真は、孫氏のものとは正反対に、自信に満ちあふれた顔。
ヒゲまで生やしてしまって、まさに「勝ち組」を謳歌している風情。
もっとも、この「ヒゲ」、「睡眠時間が4~5時間」で「時間を節約するため」と書いていますが、ホントですかね。
4~5時間も睡眠時間が取れるんなら、十分だと思うんですけど…。
これは、編集長がカマをかけられたのでしょう。

ところで、この三木谷氏のインタビューで、とても気になる一文がありました。
ちょっと引用してみますと…
問 今後も急成長を続けると、スーパーや百貨店など実店舗を構える小売店と競合していくのでは。
答 あまり競合するところはないと思います。多分、新しいマーケットをかなり作り出しているので、マクロ的に見ると日本にはプラスアルファの部分が大きいと思います。(以下略)
(日経ビジネス04年3月22日号、P141より)
どこが気になったか、お分かりでしょうか?
「『多分』、新しいマーケットを『かなり』作り出しているので」というところです。

楽天は、03年12月期で、売上高181億円、経常利益44億円という、「流通業」としたら、とんでもない利益率を叩き出している会社。
既存の流通業のパイを侵食しながら、急成長してきたはずです。
だのに、なぜ「多分」という曖昧な表現を使うのでしょうか。
しかも、「かなり」なんて、極めていいかげんな誇大表現を用いて。

楽天では、自社サービスの「利用実態調査」はしていないのでしょうか。
データがないから、三木谷氏としても、根拠のあることはいえないように思いました。

実は、このインタビューで、彼は、もう1カ所、曖昧な表現をしているところがあります。
それは、楽天の購買者数を「大体6~7万人かな…」と言っているところ(P140)。

「ネット企業」であるのに、日々の購買データは集積されていないのでしょうか?
「ちなみに、前日の利用者データでは、約6万○千○百人ですけど…」と発言するのなら分かる。
それも示さず、「大体」なんて、いいかげんな表現でよいのでしょうか?

以前見た、イトーヨーカ堂鈴木氏のテレビインタビューでは、会長室で日々前日のデータを眺めているとのこと。
彼は、著書にも書いているはずですが、現場主義というより、データ主義。
これは、ダイエー中内帝国に対するアンチテーゼという意味でしょうが、徹底的にデータで見ていくのが、流儀となっている。
「これじゃ、店長はかなわんなぁ…」、テレビを見ていて、そう思ったことを思い出します。

三木谷氏が聞かれた同じことを、「ヨーカ堂鈴木、イオンの岡田、ダイエー中内だったら、それこそどんな風に答えるだろうな…」、そんな風に思いました。
誰か一人くらいは、1人単位で、利用者数をきっちり答えそうな気もします。
それぞれ「ピーク」の時に、同じ質問をぶつけてみたかったですね。

楽天三木谷氏は、ハーバード大MBA。
こんな曖昧な表現だらけで、ハーバードのMBAは許されたのでしょうか。
「何のデータも示さず、勢いだけで喋っている」、そんな風に受け取れます。
今は時代が後押ししてくれているからいいけれど、それがなくなったら…。

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彼のインタビューには、まだ気になるところがあります。
インタビュー後半で、件の「ヴィッセル神戸買収」について語るところ。
ヴィッセルを、マンUになぞらえて語るところは、まあ常套手段といえますが、「イルハン獲得」について、こんなことを言っています。
「イルハンの獲得を、みんな人気を上げるためと言うんですけど、まじめな話、実力は2002年のワールドカップで3点取っているでしょ。日本人で誰が3点取ったのかと。一昨年はトルコの得点王ですからね。今年も9試合で8点取っている。今年のヴィッセルは凄く強いですよ。フォワードで8人いますから。みんな争ってますよ。ちょっと取りすぎなくらいです…」
(日経ビジネス04年3月22日号、P143より)
イルハンが去年のW杯で3得点した価値とか、トルコリーグの得点王の価値は、どうでもいい。
自分がオーナーとなったチームを、「凄く強い」なんて、子供じみた表現をするのもいい。
ただ、その根拠が「フォワードで8人いますから」というのは、サッカーにあまり詳しくない私でさえ「?」と思います。
「サッカーって、フォワードを沢山集めた方がいいのか?」と。

そうではありませんね。
そういう「偏ったチーム構成で勝てるほど、世の中のプロスポーツは甘くない」ことは、拙著で散々研究しております(爆)。

ヴィッセルの布陣を熱く語る三木谷氏は、「もともとサッカーはお好きなんですか」と編集長に聞かれて、「いや別に。今は好きです」と答えています。
勝ち組といえば、それまでですが、「勢いで畑違いの分野に進出した感覚」は否めません。

彼は、私と同年代で、億万長者に成り上がって、それに対するやっかみも、私自身かなりあります。
だから、ちょっと穿った目で見ていることも、否定できない。
でも、このインタビューを読んで、なぜか鈴木敏夫ではなく、往年の、それこそ時代をブイブイ言わせている頃の、中内功を想像してしまいました。

このインタビューが、楽天の「ピーク」でないことを祈るばかりです。

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流れが変わる時というのは、あるものです。
ネット時代の、もう1人の勝ち組といえる「松井証券松井氏」が、TBS「情熱大陸」で取り上げられていました。

母校で授業を教えたり、部活動の懇親会で、現役学生相手に持論を奮う姿は、まさに楽天三木谷氏と並ぶ「勝ち組」そのもの。
「企業のことなんて考えなくていいんだよ、自分のことだけ考えろよ」と言われた学生は、戸惑っていましたが。
私も、この論は間違っていると思いますけど。
でも、それは各自各論があってよい。
気になったのは、松井氏の持論ではありません。

TBSの取材のさなか、松井証券が、日本橋兜町から、千代田区半蔵門に引っ越しました。
皇居を見下ろすお堀端、絶景のビルにです。
それまで、5カ所に分散していた本社機能を、1カ所に集約するとのこと。
オープンなオフィスで、格好いいこと、この上なしです。

ただ問題は、その家賃。
番組中、ナレーションで「都内でも最も家賃が高いといわれるこのビルに…」と言っていました。

半蔵門は、たしかにイメージはよいところですが、オフィス環境としては今ひとつ。
交通の便が、営団半蔵門線1本だけで、あとはタクシー頼みとなり、あまりよくありません。
なのに、「都内最高」という家賃が、そもそも疑問なのですが、さらに疑問なのは、なぜこんな家賃の高いビルに、わざわざ入るのかということ。
それも「ネット証券会社が」です。

「外交を廃止」して、松井証券が伸びてきたことは、今さらいうまでもありません。
証券業界の既存のやり方を覆してきたからこそ、今の松井証券がある。
そして、成功して、本社機能を1カ所に集約するのはいいでしょう。
でも、なぜ「都内最高家賃」なのか。

ネット証券で、ここまで成功している会社であれば、極端にいえば、沖縄や北海道に本社があってもいいはず。
いや、そこまではありえなくても、これだけ高層ビルの開発が進んで、ビル賃貸料がますます下がること必至なのに、なぜたいして便利でもない土地の、しかもバカ高い家賃のビルに入居しなくてはならないのか。
「探せばいくらでもあるでしょうに」と思ってしまいます。

もちろん金融業ですから、ビルのセキュリティ面など、入居条件は簡単ではないはず。
それも加味しての半蔵門なのかもしれません。
また、「採用イメージのアップ」が、こんなビルを選んだ最大要因だと分析してみましたが、ホンネはどうなのでしょう。

でも、「勝ち組の松井証券」だったら、例えば、都心でもちょっとマイナーな「目黒」とか、流行を少しハズしたところに移転して欲しかったですね。
利益率も、楽天同様、既存の証券会社と比べものにならないものがあるのだから、「無駄な家賃」で、利益を削ることはないでしょう。

六本木ヒルズは、バブルの象徴としても、「半蔵門の最高家賃ビル」を選んでしまったところに、松井証券の転換点があるような気がしてなりません。
妙なエスタブリッシュメントの道を歩もうとしているような…。
かつて、家賃のバカ高いビルに入居して、長続きした企業も、あまり聞かないものですから。

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楽天と松井証券という、ネットバブルを勝ち上がってきた企業が、ともに少しだけ垣間見せた姿。
あとから思えば、「何ともなかった」で終わるのかも知れません。
ソフトバンクが、一敗地にまみれている時だからこそ、気になっただけなのかも知れません。
でも、少しだけ見えたその姿は、とても気になるものでした。

孫正義が、一定期間、雌伏の時を過ごさなければいけない以上、三木谷・松井両氏が取り上げられる機会が、ますます増えそうです。
これまでのような、成長するネット企業という扱いと変わり、エスタブリッシュメント的扱いを受ける機会も増えるでしょう。
その中で、今まで通りの「平常心」を保てるかどうか。
それぞれの「創業の熱き想い」を忘れずにふるまえるかどうか。
私としては、ますます冷静に見守っていきたいところです。



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