1999年10月26日から2004年10月12日まで続けたマーケティング的コラムをブログとして復活させました。
大昔に会社の部門報に書いた文章も少々。
株式会社リクルートリサーチの部門報「週刊しらべ」に書いた文章です。
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【はじめに】
有森選手の大阪国際女子マラソンでの激走も、いまだ興奮冷めやらず、といったところであるが、実はこの冬、陸上競技のテレビ放映にちょっとした異変が起こっていた。それは『駅伝』のテレビ放映が以上に増えていたことである。あの「ベルリン」でも、そして「バルセロナ」でも行なわれた『駅伝』は、今なぜこんなにウケているのか、企業のスポンサーシップという観点から考えてみたい。
【3ヵ月間に13本!】
昨年11月から本年の1月まで、首都圏のテレビ局で『駅伝』が放映された本数は、13本である(表1参照)。
表:11月から1月までの『駅伝』テレビ放数数 | ||
日付 | レース名 | 放 映 |
11月3日 | 全日本大学女子駅伝(大阪) | テレビ朝日 |
4日 | 東日本実業団女子駅伝(浦和) 全日本大学駅伝(伊勢) |
TBS テレビ朝日 |
11日 | 東日本女子駅伝(福島) | フ ジ |
25日 | 東日本実業団駅伝 | TBS |
12月9日 | 実業団女子駅伝(岐阜) | TBS |
16日 | 国際千葉駅伝 | フ ジ |
23日 | 高校駅伝(京都) | NHK |
31日 | バルセロナ女子駅伝 | フ ジ |
1月1日 | 全日本実業団駅伝(群馬) | TBS |
2日、3日 | 箱根駅伝・往路/復路 | 日本テレビ |
13日 | 都道府県対抗女子駅伝 | NHK |
3 ヵ月で13本であるから、ほぼ毎週あったといってよい。
なかでもその頂点は、毎年正月の2日と3日に行なわれる「箱根駅伝」だろう(正式には「関東大学対抗東京箱根間往復駅伝競走」という。実は、関東地方の大学しか出場できない極めてローカルな大会である)。
「箱根駅伝」は、数年前から、サッポロビールがメインスポンサーとなった。
これに伴い、それまでNHKの断続的なラジオ放送と、テレビ東京のゴール前2時間程度の放映のみにすぎなかったのが、日本テレビで2日間計12時間放映されるようになった。
視聴率は往路が23.7%、復路が26.8%(ともにニールセン調べ)と、12月31日から1月6日までの間の集計で、それぞれ15位と12位に食い込んでいる。
形骸化したといわれる視聴率ではあるが、この数字は、あの「オールスターかくし芸大会」や「ビートたけし」や「とんねるず」の番組のそれを上回っているのである。
テレビ放映されるからには、必ず何らかのスポンサーがつく。企業もスポーツを後援することにより、企業の文化的イメ-ジを上昇させようと目論んでいるのである。数年前までは、「マラソン」が冬の陸上競技のテレビ放映の中心であったが、いつのまにか「走る広告塔」の主役は、マラソンから『駅伝』へと代わってしまった。なぜ、駅伝はこれほどまでに企業に好まれているのだろうか。
【タスキリレーが緊張感を産む】
まず第一には、「ドラマ性」の高さであろう。
駅伝もマラソンも、一部を除けば、実は、走行距離はほとんど同じである(むしろ、駅伝の走行距離をマラソンに合わせて、走破タイムなどの目安をつけやすくしているといった方がよいだろう)。
つまり、企業が「ゼッケン」に自社の名前を入れても、露出時間は同じなのである。
駅伝とマラソンの最大の違いは、もちろん「タスキリレー」の有無である。駅伝は、複数人によるこのリレーがあるゆえに、「ハプニング」も起こりやすく、また1人のミスも許されないという「緊張感」も漲っているのである。
実際、テレビで見ている側も、マラソンよりレースにアクセントがあるので、ポイントを見つけやすい。
莫大な後援料(広告料)を出費する企業としては、広告露出時間が同じであるなら、当然、「より面白い番組」のスポンサーとなるだろう。
この点からみると、マラソンがつまらなくなったというより、『駅伝』の方が、「マラソン」より、もっと面白く、そして新鮮であったということなのであろう。
【監督も広報も大喜び】
しかし、マラソンも確かにつまらなくなった。いや、日本人の夢を断たれた、というべきだろうか。
ロスにおける瀬古(現エスビー監督)しかり、ソウルにおける中山(ダイエー)しかりである。それぞれの五輪におけるエースの惨敗は、マラソンが、「陸上競技で日本が唯一金メダルを取ることができそうな種目」と思い込んでいた日本人に、世界の壁の厚さを思い知らせた。
その後、両エースに続くスター選手も現われず、日本のマラソン界の将来は全く暗いものとなっていった。
そこで『駅伝』の登場である。
日本では古くから行なわれていた競技であったが、なぜか世界では全く行なわれていなかったことも幸いして、駅伝は日本生まれの『EKIDEN』として知らされていった。
『駅伝』は、陸上部を抱える企業にとっても都合がよかった。『駅伝』は、通常1人が10km程度を走る。マラソンが、40数kmという超長距離を走るのに比べれば、かなり短い。
マラソンは、瀬古の師匠であった故中村清監督(元早大監督、元エスビー監督)がすさまじいまでの精神論でならしたように、体力もさることながらメンタルな部分が勝負を分けるといわれている。つまり、選手を走らせる企業にとって、マラソンは選手を育てるのが非常に難しい。
そのため、企業はマラソンより比較的楽な(?)『駅伝』に目をつけたのである。
さらに、駅伝は「個人」が走るというより、「チーム(企業)」が走るわけであるから、マラソンよりも広告効果は高い(何しろ黙っていてもアナウンサーが企業名を連呼してくれる)。『駅伝』はスポンサーだけでなく、選手を走らせる各企業の広報にとっても、応えられない市場だったのである。
【長期的視野で考え始めた企業】
最近、テレビの視聴率をめぐって皮肉な話があるらしい。
それは、かのボクシングのマイク・タイソンの試合を日本テレビが放映する時、スポンサーがなかなか集まらなかったというのである。その理由は「あまりにも試合が早く終りすぎるため(要するにタイソンが強すぎるため)、視聴者はテレビの放映時間のすべてをまともに見ない」からだという(実際に、先日JSBで放映されたタイソンの試合はわずか2分27秒で終ってしまった)。
かつては、視聴率に騙されていた企業も、そのオカシナ部分に気づき始めてきている。
また、企業の「メセナ」が問題となってきていることも相乗効果を呼び、即効性のある文化(スポーツ)支援よりも、もう少し長期的視野に立った企業活動を取り始めている。
単に、金を出して、広告が出て、売上げが伸びればいいという論理は許されない。
その昔、お金持ちは好んで、将来性のある人やモノに投資をしてきた。そして今、企業に求められているのは、この「打算的でない企業行動」なのである。
『駅伝』は、「将来性」という点では、選手層の厚さから期待が持てるし、さらに、前述の日本の独自性が気に入られているのではないか。
もうすでに『駅伝』だけでなく、「アメリカンフットボール」(東芝、コカコーラ、ニチイ)や「トライアスロン」(NTT)など、「ゴルフ」「テニス」といった主要競技以外で、これから伸びると思われるスポーツを企業が争うようにバックアップし始めている。
企業も、テレビ視聴率など気にせず(もとよりあまり期待できない)、将来性があり、他社がまだ進出していないスポーツを選ぶようになってきたのである。
営利主義に染まりすぎた日本の企業が、どれだけ「打算」から脱却できるのか疑問もある。
しかし、企業のメセナや1%クラブなど、企業の文化支援・地域活動などに、ますます注目が集まっている。儲けすぎた日本企業は、どのように社会に還元していくのか頭を悩ましている。
今後、どんな企業が、どんなスポーツをバックアップしていくのか、非常に興味のつきないところである。
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