1999年10月26日から2004年10月12日まで続けたマーケティング的コラムをブログとして復活させました。
大昔に会社の部門報に書いた文章も少々。
日本マクドナルド元社長、藤田田氏が亡くなりました。
日本に「ハンバーガー」という食文化を築いた、一人の偉大な経営者。
しかし、最後の最後に戦略をミスし、それがきっかけで表舞台を去りました。
それから間もないのに…。
突然の悲報です。
私にとっては、「勝てば官軍」などという、傲慢極まりない言葉を、座右の銘にしていること自体、マーケティングコラムニストとして、ツッコミどころ満載な人でした。
とはいえ、それはあくまでも「表面的なツッコミ」であって、彼が実際に「勝つ」ためにしてきたことは、マーケティングに携わる者として、尊敬せざるを得ません。
---
私が、マクドナルドの恐ろしさを実感したのは、某牛丼チェーンから、「売上予測モデル」の開発を依頼された頃。
ちょうど10年くらい前でしたでしょうか。
売上予測モデルを研究すればするほど、マクドナルドが、当時すでに全店に導入していた完璧なモデルがそびえ立っていました。
マクドナルドでは当時、この予測モデルを作り上げた方が、日本マクドナルド史上初めて「社長賞」(藤田賞?)を受賞したということでした。
それまでは、優秀な売上を上げた店長なり、統括責任者が受賞していたのでしょう。
ところが、売上予測モデル開発という、ともすれば地味な役回りの人が、初めて受賞したことで、社内でも話題になったそうです。
何しろ、そのモデルの精度は99.5%といわれていました。
要するに、「どこに店を出せば、売上がいくらになるか、99.5%の確率で当たる」ということです。
これ、一見簡単そうに思えて、なかなかできないことです。
何しろ、まず、店舗のサンプルが集まらないとできない。
さらに、店舗の協力を得て、地道なデータ収集を、定期的に行わなくてはならない。
例え、多くの店舗を抱えているチェーンでも、この「地道」「定期的」というところで、だいたいポシャるんですね。
それをマクドナルドは、(おそらく藤田氏の号令で?)完璧な予測モデルを作り上げた。
このモデルの発展型が、少し前によく取り上げられていた「マクドナルドのマップ」のはずです。
パソコン画面上の地図の、特定場所ををクリックすると、商圏人口や事業所数などが、即座に表示されるという、おそるべきもの。
マクドナルドでは、これを元に、店舗開発を行っているようです。
店舗展開をしたい、さまざまな業種の企業が買っているというのも、納得できる代物です。
---
「勝てば官軍」なんて、「結果オーライ」みたいな言葉を表に掲げながら、その裏では、こういう地道な作業を厭わない。
それも、統計学など様々な理論を駆使して、綿密な戦略を練る。
ここが、藤田田の一面でもあります。
単に、営業パワーがあるだけの人であれば、何ら怖いことはない。
表向きは、「イケイケゴーゴー」のように見せかけて、その裏で、緻密なことをやる。
これ、私が尊敬する早稲田ラグビーの総帥、故大西鐵之祐の「理論と情熱」という考え方と、相通じるところがあります。
大西の場合は、徹底的な理論で、戦術を固めて、「オレを信じるか、敵を信じるか、どっちなんだ」と選手に迫る。
選手も、その理論に心酔しきってきたところで、「でも最後は戦術やないで。お前ら絶対勝て!」と、涙ながらにやる。
スポーツにも、こういうバランス感覚が必要なわけです。
藤田田の場合は、マスコミのインタビューだけを見るなら、傲慢な振る舞いや、自信満々な態度から、安易に「カリスマ性」のような言葉を使い、真実を隠してしまいがち。
でも、その陰では、前記の売上予測モデルや、全世界から最も安価な仕入れをするシステムなど、さまざまな最先端技術を躊躇なく取り入れていた。
彼の経歴を見れば、「東大法学部」なんて文字が、すぐ目に入るのですから、このような「マーケティング武装」も当たり前なのでしょうが、あの物言いを見聞きしていると、ついそんなことを忘れてしまいますね。
「何てイヤなヤツなんだ…」
そう思った人も、少なくないはずです。
でも、彼もまた、絶妙のバランス感覚を備えていた人だと思います。
---
それにしても、あれだけの業績を挙げた人ながら、最後に、たった一度のミスを犯しただけで、こんなにちょっと寂しげな人生の終わり方でよいのでしょうか。
享年が78歳。
1年前の退任ですから、77歳まで、第一線で働いてきたわけです。
つい最近、伊藤忠商事の丹羽社長が、次期社長を指名しました。
丹羽氏は、「スキップワンジェネレーション」というキーワードを、常々掲げていました。
彼は、社長という地位がもたらす慢心を戒めながら、現在65歳の自分の次は、1世代下であるとしていた。
丹羽氏は、「50代が、最も働き盛り」と発言しています。
世界には、40代の経営者も多数いますが、商社という経験が必要な業界では、50代が最も仕事が充実する時期だという判断です。
このケースに比べると、日本には、政治家だけでなく、60代どころか、70代の経営者が多すぎる気がします。
小泉首相が、政治家の「定年制」を提案したときに、散々物議を醸しましたが、日本の今の老齢世代は、「リタイア」という発想が理解できないみたいですね。
「水戸黄門」が、これだけ愛され続ける国だというのに、ああいう「第2の人生」の過ごし方が理解できないのは、なぜでしょうか。
理由は、もちろん様々でしょうが、我々「若い」世代からすれば(40歳でまだ若い?)、その一つは、「権力に対する固執」としか思えません。
権力は甘い果実。
それさえ握っていれば、周囲はチヤホヤしてくれる。
こんなおいしいものを、簡単に手放したくはない。
だから、仮に手放すにしても、「世襲」ということになるのでしょう。
おいしい果実は、自分の可愛い子供に、是非食べさせたいと。
その果実が、少し腐りかけていることに気付かず、バトンタッチしてしまうことが大半なんですがね。
---
ダイエーは、今さら言うまでもありませんが、一代で会社を大きくした人に、バトンタッチの時期を見失っている人は、意外や多い。
スズキ(自動車)の鈴木さんは73歳。
安くて良い自動車を作る情熱は、まだまだ盛んなのでしょう。
でも、若い者に、いつになったら任せてくれるのでしょうか。
イトーヨーカ堂の鈴木会長は72歳。
ビジネス人生の集大成のような本を出版されましたが、いつになったら引退するのでしょうか。
セブンイレブンを、ここまで育て上げても、まだ若手に委ねられないのでしょうか。
日清食品の安藤百福会長に至っては94歳。
この歳でありながら、未だゴルフで、楽々ハーフを回られるそうだから、体力はまだまだあるのでしょう。
でも、自分の子供にすら、未だ任せきる訳にはいかないのでしょうか。
意気軒昂、心身充実、色々な言葉を駆使して、「若い者にはまだまだ任せられない」という気持ちは分かります。
でも、その裏には、「人を信用できない」という心が、ちらほら見え隠れしてしまうのは、私だけでしょうか。
本田宗一郎や、井深大、盛田昭夫ら、うまく世代交代をしてきた経営者の人となりを考えると、ビジネス社会の「引き際」とは、人間というものを「性善説」でみるのか、「性悪説」でみるのかの違いに辿り着くような気もします。
世の中に、もう少し「性善説」の人が多くならないと、水戸黄門も増えてこないような気がします。
---
藤田田が、日本の新しい食文化を創造したのか、それとも伝統ある食文化を破壊したのか、それは後世の判断に委ねるべきこと。
ただ、一人の偉大な経営者の死が、今の日本のビジネス社会に与える影響を考えると、ちょっと寂しいところがあります。
悲しいことかも知れませんが、おそらく何も変わらないでしょう。
卓越した情熱を持ちながら、最先端の理論にも通じた彼の業績を、我々は冷静に語り継ぐ必要があるはずです。
そして、その際には、人間の「引き際」についても、合わせて考えながら、次代に伝えていく必要もありましょう。
彼が、日本のマーケティングに残した偉大な業績に、改めて感謝するとともに、心よりお悔やみ申し上げます。
日本に「ハンバーガー」という食文化を築いた、一人の偉大な経営者。
しかし、最後の最後に戦略をミスし、それがきっかけで表舞台を去りました。
それから間もないのに…。
突然の悲報です。
私にとっては、「勝てば官軍」などという、傲慢極まりない言葉を、座右の銘にしていること自体、マーケティングコラムニストとして、ツッコミどころ満載な人でした。
とはいえ、それはあくまでも「表面的なツッコミ」であって、彼が実際に「勝つ」ためにしてきたことは、マーケティングに携わる者として、尊敬せざるを得ません。
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私が、マクドナルドの恐ろしさを実感したのは、某牛丼チェーンから、「売上予測モデル」の開発を依頼された頃。
ちょうど10年くらい前でしたでしょうか。
売上予測モデルを研究すればするほど、マクドナルドが、当時すでに全店に導入していた完璧なモデルがそびえ立っていました。
マクドナルドでは当時、この予測モデルを作り上げた方が、日本マクドナルド史上初めて「社長賞」(藤田賞?)を受賞したということでした。
それまでは、優秀な売上を上げた店長なり、統括責任者が受賞していたのでしょう。
ところが、売上予測モデル開発という、ともすれば地味な役回りの人が、初めて受賞したことで、社内でも話題になったそうです。
何しろ、そのモデルの精度は99.5%といわれていました。
要するに、「どこに店を出せば、売上がいくらになるか、99.5%の確率で当たる」ということです。
これ、一見簡単そうに思えて、なかなかできないことです。
何しろ、まず、店舗のサンプルが集まらないとできない。
さらに、店舗の協力を得て、地道なデータ収集を、定期的に行わなくてはならない。
例え、多くの店舗を抱えているチェーンでも、この「地道」「定期的」というところで、だいたいポシャるんですね。
それをマクドナルドは、(おそらく藤田氏の号令で?)完璧な予測モデルを作り上げた。
このモデルの発展型が、少し前によく取り上げられていた「マクドナルドのマップ」のはずです。
パソコン画面上の地図の、特定場所ををクリックすると、商圏人口や事業所数などが、即座に表示されるという、おそるべきもの。
マクドナルドでは、これを元に、店舗開発を行っているようです。
店舗展開をしたい、さまざまな業種の企業が買っているというのも、納得できる代物です。
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「勝てば官軍」なんて、「結果オーライ」みたいな言葉を表に掲げながら、その裏では、こういう地道な作業を厭わない。
それも、統計学など様々な理論を駆使して、綿密な戦略を練る。
ここが、藤田田の一面でもあります。
単に、営業パワーがあるだけの人であれば、何ら怖いことはない。
表向きは、「イケイケゴーゴー」のように見せかけて、その裏で、緻密なことをやる。
これ、私が尊敬する早稲田ラグビーの総帥、故大西鐵之祐の「理論と情熱」という考え方と、相通じるところがあります。
大西の場合は、徹底的な理論で、戦術を固めて、「オレを信じるか、敵を信じるか、どっちなんだ」と選手に迫る。
選手も、その理論に心酔しきってきたところで、「でも最後は戦術やないで。お前ら絶対勝て!」と、涙ながらにやる。
スポーツにも、こういうバランス感覚が必要なわけです。
藤田田の場合は、マスコミのインタビューだけを見るなら、傲慢な振る舞いや、自信満々な態度から、安易に「カリスマ性」のような言葉を使い、真実を隠してしまいがち。
でも、その陰では、前記の売上予測モデルや、全世界から最も安価な仕入れをするシステムなど、さまざまな最先端技術を躊躇なく取り入れていた。
彼の経歴を見れば、「東大法学部」なんて文字が、すぐ目に入るのですから、このような「マーケティング武装」も当たり前なのでしょうが、あの物言いを見聞きしていると、ついそんなことを忘れてしまいますね。
「何てイヤなヤツなんだ…」
そう思った人も、少なくないはずです。
でも、彼もまた、絶妙のバランス感覚を備えていた人だと思います。
---
それにしても、あれだけの業績を挙げた人ながら、最後に、たった一度のミスを犯しただけで、こんなにちょっと寂しげな人生の終わり方でよいのでしょうか。
享年が78歳。
1年前の退任ですから、77歳まで、第一線で働いてきたわけです。
つい最近、伊藤忠商事の丹羽社長が、次期社長を指名しました。
丹羽氏は、「スキップワンジェネレーション」というキーワードを、常々掲げていました。
彼は、社長という地位がもたらす慢心を戒めながら、現在65歳の自分の次は、1世代下であるとしていた。
丹羽氏は、「50代が、最も働き盛り」と発言しています。
世界には、40代の経営者も多数いますが、商社という経験が必要な業界では、50代が最も仕事が充実する時期だという判断です。
このケースに比べると、日本には、政治家だけでなく、60代どころか、70代の経営者が多すぎる気がします。
小泉首相が、政治家の「定年制」を提案したときに、散々物議を醸しましたが、日本の今の老齢世代は、「リタイア」という発想が理解できないみたいですね。
「水戸黄門」が、これだけ愛され続ける国だというのに、ああいう「第2の人生」の過ごし方が理解できないのは、なぜでしょうか。
理由は、もちろん様々でしょうが、我々「若い」世代からすれば(40歳でまだ若い?)、その一つは、「権力に対する固執」としか思えません。
権力は甘い果実。
それさえ握っていれば、周囲はチヤホヤしてくれる。
こんなおいしいものを、簡単に手放したくはない。
だから、仮に手放すにしても、「世襲」ということになるのでしょう。
おいしい果実は、自分の可愛い子供に、是非食べさせたいと。
その果実が、少し腐りかけていることに気付かず、バトンタッチしてしまうことが大半なんですがね。
---
ダイエーは、今さら言うまでもありませんが、一代で会社を大きくした人に、バトンタッチの時期を見失っている人は、意外や多い。
スズキ(自動車)の鈴木さんは73歳。
安くて良い自動車を作る情熱は、まだまだ盛んなのでしょう。
でも、若い者に、いつになったら任せてくれるのでしょうか。
イトーヨーカ堂の鈴木会長は72歳。
ビジネス人生の集大成のような本を出版されましたが、いつになったら引退するのでしょうか。
セブンイレブンを、ここまで育て上げても、まだ若手に委ねられないのでしょうか。
日清食品の安藤百福会長に至っては94歳。
この歳でありながら、未だゴルフで、楽々ハーフを回られるそうだから、体力はまだまだあるのでしょう。
でも、自分の子供にすら、未だ任せきる訳にはいかないのでしょうか。
意気軒昂、心身充実、色々な言葉を駆使して、「若い者にはまだまだ任せられない」という気持ちは分かります。
でも、その裏には、「人を信用できない」という心が、ちらほら見え隠れしてしまうのは、私だけでしょうか。
本田宗一郎や、井深大、盛田昭夫ら、うまく世代交代をしてきた経営者の人となりを考えると、ビジネス社会の「引き際」とは、人間というものを「性善説」でみるのか、「性悪説」でみるのかの違いに辿り着くような気もします。
世の中に、もう少し「性善説」の人が多くならないと、水戸黄門も増えてこないような気がします。
---
藤田田が、日本の新しい食文化を創造したのか、それとも伝統ある食文化を破壊したのか、それは後世の判断に委ねるべきこと。
ただ、一人の偉大な経営者の死が、今の日本のビジネス社会に与える影響を考えると、ちょっと寂しいところがあります。
悲しいことかも知れませんが、おそらく何も変わらないでしょう。
卓越した情熱を持ちながら、最先端の理論にも通じた彼の業績を、我々は冷静に語り継ぐ必要があるはずです。
そして、その際には、人間の「引き際」についても、合わせて考えながら、次代に伝えていく必要もありましょう。
彼が、日本のマーケティングに残した偉大な業績に、改めて感謝するとともに、心よりお悔やみ申し上げます。
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