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1999年10月26日から2004年10月12日まで続けたマーケティング的コラムをブログとして復活させました。 大昔に会社の部門報に書いた文章も少々。
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株式会社リクルートリサーチの部門報「月刊しらべ」に書いた文章です。

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【はじめに】
 

中古マンションをはじめとする不動産関連価格の下落は、大蔵省の銀行に対する不動産業向け融資総量規制だけでなく、国際決済銀行(BIS)による都市銀行に対する自己資本比率規制によるところも多い。
金融機関に対する、このようなさまざまな足かせが、不動産会社の動きをも拘束したための結果である。

不動産会社にとって、これまでのような『造りさえすれば売れた時代』から、消費者のニーズに合わせたマーケティング戦略を練ることが必要になってきている。
そのためには、消費者のさまざまなデータを多角的に把握しておくことは、必須条件といえる。しかし、これまで官公庁をはじめとして、統計として収集されたデータは、いずれも供給側のデータであった。

これまで行われてきた需要側の調査の例としては、建設省が5年ごとに行っている「住宅需要調査」が挙げられる。
しかし、この調査は、「改築」など建て替えの需要まで、建設という側面から総合的に調査をしているため、居住用住宅の、新規の需要体系を、正確に把握していない。

そこで今回は、『住宅需要のメカニズム』とはどのようなものであるか、改めて検討し、それが今後どのように変化する可能性があるのかを、考察してみる。



【1.過去の住宅需要~量的側面の問題】

総務庁が5年ごとに行っている「住宅統計調査」によれば、1988年時点での全国の住宅戸数は、4,201万戸となっており、総世帯数3,781万世帯を上回っている。
住宅は、数量的にはもはや余っている時代なのである(表1)。
【表1:住宅戸数と世帯数】 
  単位:千戸 単位:千世帯
年度 住宅戸数総数 空き家を除く
住宅戸数
世帯数
1963  21,090 20,568 21,821
1968  25,591 24,557 25,320
1973 31,059 29,339 29,651
1978 35,451 32,772 32,835
1983 38,607 35,305 35,197
1988  42,007 38,096 37,812
総務庁/住宅統計調査  

 
住宅戸数が、世帯数を上回った時期は、1968年であり、戦後、450万戸不足していたといわれる住宅を補うために、急ピッチで、住宅の建設が進んだ、ひとつの成果といえるだろう。

しかし、この数字は、あくまでも表面上のものであり、1968年のデータで、「住宅戸数」から「空家を除いた数」と「世帯数」を比較してみると、依然、世帯数の方が多いことになる。
空き家を除いた住宅戸数が、世帯数を上回るのは、1983年調査であり、これよりさらに15年後のことになっている(調査の間隔が長いので正確には79~83年の間である)。
建設省住宅局実施の、「空家実態調査」(昭和1980年)によれば、空家の問題点として以下の4つを挙げ
ている。
 


① 空家の3分の2は民営借家で、いわゆる木賃住宅が多い。
② 設備、規模、老朽度などの質的要素が劣っているものが多い。
③ 規模、設備などの面からみて、単身世帯でも最低居住水準が確保できないものが約4割ある。
④ 空家のうち利用可能で、さらに入居募集しているものは28%にすぎない。


これらの問題点はまさに、戦後、住宅建設を急いだあまり、起こりえた弊害であり、そしてこの問題は「居住水準」の問題へとつながっていくのである。
 



【2.近年の住宅需要~質的側面の問題】
 

量的に充足された住宅ではあったが、国民の暮らし全体が向上するにつれて、住宅の質に対する不満は増していった。
実際に、住宅金融公庫の「個人住宅建設資金利用者調査」(図1)でも、住宅を必要とする主要な理由に「狭い」という点を挙げた世帯が、昭和40年度は14.0%であったのに対し、昭和47年度には39.3%と3倍近くに増えている。

 

このような動きから、「居住水準」が「第三期住宅建設五箇年計画」(昭和51~55年度)で初めて設定され、「最低居住水準」「平均居住水準」の目標がそれぞれ設けられた。

そのうちの「最低居住水準」(表2)の主旨は「昭和60年をめどに、すべての国民に確保すべき水準」と決められていた。 

 
【表2:居住水準】
世帯
人員
住戸専用面積
最低居住水準 誘導居住水準
都市型 一般型
1人   16㎡   37㎡   50㎡  
2人   29   55   72  
3人   39   75   98  
4人   50   91   123  
5人   56   104   141  
6人   66   112  147  
単位=㎡、住戸専用面積は壁厚補正後  

 


この水準は、昭和48年当時は、全国の総世帯数の30.4%であったが、昭和63年には9.5%にまで減少し、最低居住水準未満世帯数は、355万世帯となっている。
しかし、この最低居住水準は、その住戸専用面積をみればわかるように、本当に「最低の水準」であり、現代の社会生活に適したものとは思えない。

そこで建設省は、次なる目標としての「誘導居住水準」(表2)を、「第五期住宅建設五箇年計画」(昭和61~平成2年度)で設定し、平成12年(西暦2000年)までに半数の世帯が達成することを目標としている。
この水準は、人が健康で文化的な暮らしをするうえで、ほぼ妥当な広さといえるだろうが、昭和63年時点において、誘導居住水準に達している世帯は32.8%にすぎない(図2)。
住宅の量的な満足度は達成されているが、質的満足感を得るには程遠いことがわかる。
 

 


【3.住宅需要の発生要因】
 

住宅の絶対数は、すでに世帯数よりも多く、その質が問題になっていることは確認できた。
では、人はどのような場合に、住宅を必要とする(住宅需要の発生)のだろうか。

次に挙げたのは、各ライフステージにおいての住まいに関する動きと、その中で生じうる住宅需要である(表3)。人物像としては、地方から上京して、首都圏に自分の家を持つ、という人を想定している。
 



【表3:各ライフステージにおける住宅需要】 

年齢 
 
ライフステージ 住まいに関する動き 住居
 
0 誕生  親と同室  (賃貸)  
4 幼稚園入園  兄弟が増える 
6 小学校入学  兄弟兼用の部屋を持つ  (持ち家)  
12 中学校入学  自分の部屋を持つ 
15 高校入学   
18  大学入学 上京のため一人暮らしを始める  賃貸 
22 社会人になる 独身寮に入る
26 社会人4年目 少し広い家に住みたくなる 賃貸
27 結婚  新居を構える 社宅 
29 第一子誕生 部屋が足りなくなり広い家に引っ越し  賃貸 
32 第二子誕生   
35 第一子小学校入学 子供に部屋を与えるために持ち家取得 第一持ち家
41 第一子中学校入学   
45 第一子高校入学   
48 第一子大学入学  
50 第二子大学入学 子供の独立 
55 定年 二人で間に合う家に引っ越し 第二持ち家
80 死亡   


この例の中に表れる住宅需要をみてみると、いずれも「結婚」「誕生」などの『必然的要因』が主であることがわかる。
この他にも、「転勤」などの、緊急で避けられない需要も考えられるだろう。住宅需要は、基本的には個人のライフサイクルから、必然的に起こるものといってよい。
住宅需要が発生する要因のもうひとつは、自己実現のための一助ともいえる『欲求的要因』である。
つまり、「もっと広い家に住みたい」とか、「もっときれいな家に住みたい」という欲求が、住宅の需要を生み出すことである。『欲求的要因』は、理論的には日々変化していくものと考えられる。

そして、『必然的要因』と『欲求的要因』の関係を図で示すと次のようになる(図3)。
図の見方を説明すると、『必然的要因』については、ライフステージを中心とする線上の各ポイントに、直線的に付置されている。
一方、『欲求的要因』は、ライフステージとともに進行するが、欲求の強さがライフステージと垂直に変化する。
そして、欲求の強さと必然的要因が合致するポイントで、『住宅の取得』に至るのである。
 




 




 



住宅金融公庫が、昨年(1990年)行った『持ち家取得動向調査』(図5)によれば、「民間借家」「社宅・官舎」に住む世帯の80%以上が、住まいの住み替えを考えているという。
借家や社宅に住んでいる世帯にとって、今の住まいは、あくまでもモラトリアム的なものであり、いつかはもっと「よい家」(大半は持ち家ということであろう)に住みたいと考えているのではないか。
これは、建設省の住宅需要調査の結果(表4)で、借家や給与住宅(社宅など)に住む世帯の、今の住まいに対する不満が高いことでも裏付けられる。
 



【表4:今の住まいに対する不満】
  83年 88年 
全 国  46.1  51.5 
持ち家   39.0  45.0 
公共借家  59.9  67.7 
民営借家  61.6  63.5 
給与住宅  52.9  60.4 
建設省/住宅需要調査 



住宅需要に関する『必然的要因』にしろ、『欲求的要因』にしろ、それぞれが単独で住宅需要に結びつくことは現実的ではない。通常は「子供も生まれたことだし、広い家に住もうか…」と考えるように、この2つの要素が複雑に絡みあっているものである。
 



【4.住宅需要の減少要因】
 


今の時代では考えにくいことだが、住宅需要が減少する要因を推測してみる。

一つ目は、いわゆる「チャイルドショック」である。
先日、マスコミを賑わしたように「合計特殊出生率」は、年々低下の一途をたどり、昨年(1990年)は、ついに1.53人となった。つまり、2人兄弟すら少なくなり、一人っ子が多くなっているのである。

一人っ子が多くなると住宅事情はどうなるのだろうか。それは、家を買う必要性が減少することではないだろうか。
仮に、一人っ子どうしの男女が結婚する場合、双方の親が持ち家に住んでいれば、新婚夫婦にとって、家は実質2軒あるようなものである。
新婚当初は親から独立して、賃貸などに住むこともあろうが、相続のことなどを考えれば、わざわざ高い金を払ってまで家を買うという行動をとるだろうか。
地価も、今の5分の1程度にでもなれば、話は別であろうが、人件費の高騰などの要素も考えると、今の住宅価格が、そう簡単に安くなるとも思えない。

二つ目は、日本人の価値観の変化である。
日本の労働時間短縮に対する外圧は、ますます強くなり、日本人の労働や余暇に対する価値観を、根底から覆すようなことすら期待されているようである。
一生懸命働いて、サラリーマンでいるかぎり、住宅ローンを払い続けるなどということは、21世紀には時代遅れの考え方になってしまうことも、ありえないことではないだろう。

日本人の価値観が変化する時、そのときが「土地神話」の終焉なのではないだろうか。


【まとめ】

巷間言われているように、「バブル経済」が本当に崩壊しているのであれば、今はまさに、歴史的節目になりつつあるのかもしれない。
住宅需要のメカニズムも、これまでの常識では計り知れないような、ダイナミックな展開をすることも考えられる。

「黙っていても客が集まってくる」ということ自体は、企業経営において、あくまでも異常なことであったのだろう。一度、甘い蜜の味を覚えてしまった者たちにとっては、これからの時代は厳しく感じることはあっても、楽と感じることはほとんど考えられない。
そんなこれからの時代こそ、消費者本位のマーケティングは、より重要なこととなろう。
この点について、今後さらに住宅需要の指数化の可能性についても検討し、実用的なものとして活用できるような研究を行っていきたい。

 


<参考文献>
■『土地問題事典』土地問題研究会/日本不動産研究所編
■『土地白書』国土庁
■『住宅経済データ集』監修:建設省住宅局
■『住宅需要の動向』監修:建設省住宅局編集:日本住宅協会
■『住宅金融月報№462』住宅金融公庫
■『ハウジングリサーチ№6』住宅金融公庫
■『土地を考える』日本経済新聞社編
■『土地の経済学』野口悠紀雄
 

 

 

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