1999年10月26日から2004年10月12日まで続けたマーケティング的コラムをブログとして復活させました。
大昔に会社の部門報に書いた文章も少々。
●ホームシアター用プロジェクター 240万円
●オーディオCD 80万円
●スピーカーユニット 70万円
●トリニトロンカラーモニター(TV?) 130万円
●小型デジタルスチルカメラ 38万円
とてもとても庶民の手が出る価格ではありません。
ではなぜこんなものを、ソニーはわざわざ発売したのか。
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発表当初の談話や記事は、以下の通り。
キーワードがいくつかあります。
- 2000年のある時、競争原理に縛られた製品ばかりではよくないという思いが頭をもたげた。そのときに、たまたま、ある雑誌でソニーの技術者が、クオリアという概念について語っていた記事を読んだ。これを見てソニーは人の心に感動を与える“クオリア”を追求すべきだと直感した。(出井会長談話)
- 商品の価格は若干高めとなってしまったが、技術者にはコスト度外視で時間をかけて作ってもらった。見てもらえればわかるが、愛着をもって末長く使ってもらえるような製品ばかり。(高篠副社長談話)
- 市場競争における商品の低価格化が進む中で、競合他社と同じモノが求められてきたこれまでの呪縛から逃れ、ユーザーに安心感を与える新たな価値を持つ製品群を市場に打ち出し、消費者に提供する狙いがある。(日経BPサイト記事より)
例えば「競争」、そして「呪縛」。
要するに、韓国・中国などのアジア企業群が、どんどん実力を高めてきたため、ソニーは価格競争に巻き込まれた。
いくらよい製品を作ろうとしても、アジア企業群の価格政策を無視した製品は許されない。
しかし、そんな泥仕合に参戦するだけでは、会社が疲弊するだけ。
その「呪縛」から逃れたかったのでしょう。
この部分の発想は間違っていません。
いわゆる「プレミアム価値」を持つ製品は、どんなマーケットでも、必ず一定の規模があります。
クルマでいえば、もはや大衆化してしまったベンツでも、ましてやポルシェでもなく、ベントレー。
日本でも、このご時世にベントレーを買う人はいます。
クオリアが、AV家電のベントレーを目指したのなら、それはそれでよい。
ただ、これらの製品を見て、「人の心に感動が生まれるか」といったら、絶対に生まれないでしょう。
ウォークマンが「50万円」だったら、我々は感動したと思いますか?
79年の発売当時、たった「3万3千円」で「歩きながら音楽が聴ける」ことに感動したから、世界的に売れたのではないですか?
「80万円のCDプレイヤーです」と言われても、我々は感動しません。
ただ、「感心」はするでしょう。
「へぇ~、お金をかければ、こんなものが作れるんだ」という程度の、です。
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ソニー自身も、クオリアが大量に売れるものとは、所詮考えていないでしょう。
元々「コスト度外視」ですから、利益を出そうとも思っていないはず。
では、どんな意味があるのか?
それは一にも二にも、自社内の技術力を再構築するためでしょう。
そして、このクオリアは、ソニーにとっての「F1(レース)」なのではないでしょうか?
いちおう消費者向けに販売する以上、それなりの価格をつけて販売をするけど、実は、そんなことはたいした意味を持っていない。
ソニーにとってのF1である以上、「最高の技術を見せつける」ことが重要なはずです。
そして、その最高の技術を見せつける相手は、消費者ではなく「競合他社」。
ソニーにしてみれば、国内外の競合が、「むむむ、さすがソニー、うちにはできない」とさえ思わせられればよい。
家電メーカーには、自動車メーカーの「F1」や「ラリー」のような、自社の最高技術をプレゼンテーションする場がない。
その「場」を、このクオリアに求めたのでしょう。
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1年少し前、「夢とそろばん」というタイトルで、日産ゴーンのことや、小泉首相のことを書きました。
(ちょうど100号の時です)
その時には、「ゴーンは、すべて一人で背負い込んでしまって、辛い」「ホンダの本田宗一郎・藤沢武夫コンビが理想」などと書いています。
ゴーンも、当時は「そろばん」ばかりで、一体どうなることかと思っていましたが、「フェアレディZ」を復活させたり、「横浜Fマリノス」を潰さないと明言したり、「夢」の部分もきちんと手をつけています。
(やはり一人で背負い込んでいますが…)
ソニーにも、かつては「井深・盛田」という最強コンビがいました。
一般に言われるように、このコンビも、「井深=夢」「盛田=そろばん」でいいのでしょう。
創業以来、この二人のバランスで、ソニーは世界的企業へと飛躍を遂げた。
ところが先日退任した大賀氏の言によれば、「今の取締役は文系ばかりで…」と嘆いておられたそう。
短絡的に考えてみれば、「文系」→「経営数字に強い」→「技術のことは理解できていない」ということなのでしょう。
事実、出井さんは早大政経学部出身、COOの安藤さんは東大経済学部出身ですから、芸大出身の大賀氏としては、「数字にしか強くない人」に思えてしょうがなかったのでは…。
その意味からも、今回のクオリアは、ソニーの「夢」の部分を追いかけるものと考えてよい。
そして、「そろばん」ばかり追いかけることに夢中だった自分たちを、少し反省する意味もあるはず。
自浄作用が働いただけ、ソニーもまだ健全です。
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ただ、「愛着をもって末長く使ってもらえるような製品」という高篠副社長の談話は間違っています。
最初に書き出した製品の価格を、それぞれ桁を一つずつ減らしてみてください。
●ホームシアター用プロジェクター 24万円
●オーディオCD 8万円
●スピーカーユニット 7万円
●トリニトロンカラーモニター(TV?) 13万円
●小型デジタルスチルカメラ 3万8千円
全く普通の価格になります。
つまり、反対に考えれば、この製品を買う人は、我々庶民より「財布が10倍大きい人」ということになります。
庶民より、財布が10倍大きい人が、はたしてこれらの製品に「愛着を持つ」でしょうか。
お金持ちにしてみれば、我々が「普通のCDプレイヤー」「普通のデジカメ」を買う感覚と同じです。
愛着を持つ人もいるでしょうが、飽きる人は、やっぱり飽きるでしょう。
80万円だろうと、800万円だろうと、「たかがCDプレイヤー」と思う人はいる。
そういうものです。
かつて、ジョン・レノンがロールス・ロイスを、サイケにペインティングして、ロールス・ロイス社の首脳を嘆かせたように、ソニーもクオリアのユーザーを、妙に研究したりすると、哀しい結果が出てくるだけだと思います。
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